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「社会・経済」から「昨晩見た夢」まで手広くカバーする個人ブログです

『ポプテピピック』は面白い

hoshiiro.jp

 

ポプテピピック』というアニメが巷で流行っているみたいですね。春からの仕事の関係上、ヒットした映画やアニメは触りだけでもチェックしておくようにしているのですが、このアニメは非常に面白いと思います。ビジネスサイドとクリエイティブサイドの双方に「何か新しいことをしてやろう」という気概を感じます。

 

テレビシリーズのアニメにおいて、第一話で何か突飛なことをして話題性を高めるという戦略は、時代を遡れば『涼宮ハルヒの憂鬱』から、最近では『おそ松さん』など、これまで数多くのアニメで採用されてきた手法なので、これ自体は特に新しいことではありません。ポプテピピックが持つ他にない新規性とは、同じキャラクターに複数の異なるキャストを当てているという点だと思います。最近では声優個人のファンも増え、いわゆる声優ネタというものも散見されるようになってきました。しかしながら、ポプテピピックのように毎週違う声優、それも大御所声優を含めてキャスティングを行うという思い切ったことをしたアニメは、これまでには無かったのではないでしょうか。

 

その理由は簡単で、そんなことをすれば声優へのギャランティーが制作費を圧迫して、アニメーションとしてのクオリティを確保できなくなるからです。そこで、ポプテピピックではどうしたか。ご存知の通り、作画にかけるコストを抑えるため、30分アニメのAパートとBパートで全く同じ内容のアニメーションを放送した訳ですね。そもそも、ポプテピピックはそれほどハイクオリティの作画が求められるような作品ではなかった、というのもあるでしょう。もう一点、このような大胆な企画が通ったのは、キングレコードの一社製作だったからではないのかな、と予想します。もし製作委員会方式を採っていたら、こんな企画にはどこかしらの出資企業がケチをつけたのではないかと、そう思う訳です。何にせよ、「どこに金をかけたらより大きなリターンが見込めるか」という選択と集中の視点に基づいた緻密な戦略によって作られた、非常に巧いアニメだと思います。アニメビジネスというものは、ここまでやっても最後の最後は賭けになってしまうのですが、ホームランを狙って空振り覚悟でフルスイングする姿勢は、見習いたいなあと思いますね。

不倫警察と化した週刊誌について

www.nikkansports.com

 

出版というマスメディアは、この時代において、独立性と信頼性の双方が高いレベルで担保されている媒体だと思います。独立性という観点のみで考えればインターネットの方が優れているかも知れないし、現にそういった言説をTwitterなどでよく見かけますが、インターネット上の情報というのは基本的に他のマスメディアの"書き写し"であり、文責者が実際に足を動かして入手した情報が果たしてそこにあるのかと問われれば、それは乏しいと答えざるを得ないでしょう(もちろん、全く存在しないとは言いません)。また、信頼性という観点から考えれば、同じように新聞や放送の方が優れているかもしれませんが、これらのメディアの独立性については?マークが付いてしまいます。これは記者クラブ制度や放送業界のビジネススキームに関わってくる話になりますが、こういった話には往往にして噂や陰謀論のようなものが介在してしまうので、ここでは多くを語らないことにします。語りえぬものと、もう一つ、存じえぬものについても、僕らは沈黙しなければならないということです。

 

前置きが長くなりましたが、僕は上記のような事情があるからこそ、出版というメディアに権力や体制に対するカウンタパワーとしての役割を期待してしまうのです。確かに、出版社はあくまでも営利企業なので、売れるモノを作ることが彼らにとっての至上命題な訳ですが、こうも有名人の不倫スクープに終始されると、どうにも辟易してしまいますね。近年は出版不況によりどの出版社も経営状態は芳しくなく、特に週刊文春の発行元である文藝春秋のようにメディアミックス戦略の源泉であるコミックス部門を持たない出版社については、輪をかけて苦しい状況下にあるのではないかと想像できます。そんな事情もあってのことなのかも知れませんが、このままだと、いよいよ出版というものが世の中から必要とされなくなってしまうのではないかと、僕はとても危惧しています。

マルク・シャガールについて

マルク・シャガールは1887年に、ロシア帝国ヴィテプスクという小さな田舎町で生まれました。「シャガール」という名前の響きから、彼をフランス人の画家だと思っている方が多いようですが、実は彼の出身はロシアだったんですね。もっと言うと、彼はロシア人でもなく、ユダヤ人でした。フランスに移り住んで、フランス風の名前を名乗るようになったのは、彼が大人になってからのことでした。彼の作品や生涯については、多数の書籍やブログに解説がありますし、そもそも僕は大学で芸術学を専攻した訳でもなく、かつ高貴な家庭で芸術の素養を磨かれて育った訳でもないので、ここでは単純に僕の好きなシャガールの作品について、少しだけ記しておこうと思います。

 

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1918年 «Над городом(街の上で)» 

 

これはシャガールの作品の中で恐らく最も有名な絵画ですね。彼の故郷、ヴィテプスクの空を一組の恋人たちが飛んでいます。空を飛んでいるのはシャガール自身と、彼の愛妻ベラであると言われています。一見幻想的で美しい絵画ですが、左下の辺りをよく観てみると、、尻を出して脱糞する男が描かれていますね。「この尻出し男は一体どのような意図で描かれたのだろう?」なんてことを学者の方たちは真剣に考えているようですが、僕は単なるシャガールなりのユーモアなのではないかと思っています。僕だって何かスピーチをする時、「決まりすぎているな」と感じたら一発ウケ狙いの冗談でも言いたくなります。僕とシャガールが同じような思考回路を持っている、なんて考えるのはあまりにも厚顔無恥なことですが、ここではそういうことにしておきましょう。

 

シャガールは1887年に生まれ、1985年にその生涯を終えました。つまり、彼は98歳の時にこの世を去った訳ですが、これは当時のロシア(ロシア人というのは今も昔も短命ですが)の平均寿命から考えれば、異常に長生きだったと言えるでしょう。しかし、彼が生きたこの時代というのは、よく知られているように、ロシアの歴史が非常に大きく動いた時代でした。1917年のロシア革命、1923年のソ連成立、1936-38年のエジョフ粛清、そして、その後に続く第二次世界対戦、、。この時代に生きたロシアの芸術家というのは、例外なくこの時代の波に飲み込まれ、少なからぬ影響を受けた訳です。しかし、前述の通り、彼自身は1910年にフランスに移住し、その後もアメリカなどを転々としていたため、直接彼の身に危害が及ぶようなことはありませんでした。ですが、彼の故郷・ヴィテプスクは戦火に焼かれてしまいました。加えて、戦争中の1944年、彼は最愛の妻ベラを敗血症により失います。この時の彼の苦痛と心労は、想像に難くありません。実はその後、シャガールは亡くなるまでに二人の女性と結婚しているのですが、彼の心は最期までベラのもとにあったようです。

 

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すいません、画像はなんとか見つけたのですが、タイトルがどうしても思い出せず。。晩年に描かれたものであることは間違いないと思います。分かる方がいらっしゃったらコメントで教えてください…。出典元のURLを貼りますが、海外サイトなので閲覧は自己責任でお願いします: 

Поэзия в картинах: "Шагал по улице Шагал" - Ярмарка Мастеров - ручная работа, handmade

 

そう、この作品はまさしく、1918年に描かれた『街の上で』のセルフオマージュです。つまり、描かれている街は戦争で破壊された彼の故郷・ヴィテプスクであり、描かれているカップルは、亡き最愛の妻ベラとシャガール自身なのです。どこか寂しげな青の色彩効果もあり、僕はこの絵を観た時に思わずじーんと来てしまいました。失われてしまったものを愛し続けるということは、とても美しいことですが、同時にとても切ないことだなぁと感じたのです。

 

そんなこともあり、この二つの作品はずっと心に残っていたので(タイトルは忘れてしまっていますが…)、柄にも無くこんな記事を書いてみたのでした。シャガールの作品はフランスの国立マルク・シャガール美術館のほか、ロシアのトレチャコフ美術館、アメリカのニューヨーク近代美術館などにも所蔵されていますので、それらの国に旅行へ行く機会があれば、ぜひ一度ご覧になってみると良いでしょう。